ヒンドゥー教の天地創造神話『乳海撹拌』

カンボジアにおいて有名な神話の一つである『乳海撹拌』のあらすじを記述致します。

乳海撹拌とはヒンドゥー教の天地創世神話の一つとされており、世界遺産にもなっているアンコールワットの第一回廊には、この話しのレリーフが約50mにも渡って存在しています。


先ず知っておきたいことはヒンドゥー教は多神教であること。ちなみに仏教の釈迦もヒンドゥー教においては多くの神様の中の一つとされています。そのため、考え方も様々で曖昧でかつ複雑なところがあります。


多くの神様が居る中で最高神に君臨しているのが、『ブラフマー(創造神)』『ヴィシュヌ(維持神)』『シヴァ(破壊神)』の3つの神をまとめて三大神と称されます。ここで紹介する乳海撹拌のあらすじにおいて登場するのが三大神と、その他の神々、そして魔族であるアスラ族(のちに仏教に取り込まれるとアシュラとなる)になります。


では、乳海撹拌の話しに入っていきます。


太古の昔、地球において不老不死の霊薬アムリタ(神秘的な飲料)を巡って神々とアスラ族による壮絶な戦いがありました。一歩も譲らぬ攻防でどちらも疲労困憊を極め疲弊しきっていた時、維持神のヴィシュヌに助けを求めました。

すると、ヴィシュヌは「争いを止めて互いに協力をして大海に様々な素材を入れてかき回せばアムリタを手に入れることが出来る。」と言いました。

 
それを聞いた神々とアスラ族は争いを止めて互いに協力することを決めます。そしてマンダラ山を軸棒とし、クールマ亀王の背中で軸棒を支え、それにヴァースキ竜王(大蛇)を巻き付けて撹拌のための綱としました。

神々はヴァースキ竜王の尻尾を持ちアスラ族はその頭を持って上下に揺さぶりながら撹拌を始めました。しかし、直ぐにヴァースキ竜王は苦しさのあまり口から炎を吐き出し漆黒の煙(猛毒ハラーハラ)が立ち上がりました。そして雷雲が生じ猛毒ハラーハラの雨を降らせ始めました。そこに破壊神であるシヴァが現れ、猛毒ハラーハラを飲み込んで世界を救いました。

ひと段落したものの、アムリタは出てこなかったので、さらに神々とアスラ族は撹拌を続けること1000年間、やがて大海は乳海となり、良質のバターであるギーが湧き出てきました。そこから程なくしてヴィシュヌの妃となるラクシュミーソーマ(神酒)太陽などが現れ、そしてアムリタの入った白い壷を持ったダンヴァンタリ神も現れました


アスラ族は何とかしてアムリタとラクシュミーを奪い取ろうとしましたが、ラクシュミーに化けたヴィシュヌに騙され、呆気なくヴィシュヌにアムリタを渡してしまいます。騙されたことに気づいたアスラ族は神々を追いかけ始めましたが、時既に遅くヴィシュヌからアムリタを受け取った神々はアムリタを分け合って飲んでしまいました。その中にアスラ族の一人ラーフが神に化けて紛れ込んでいたものの、アムリタを飲もうとしたところで太陽と月が感付いてヴィシュヌに知らせると、ヴィシュヌはラーフの首を切り落としてしまいました

首だけが不老不死となったラーフが、太陽と月に憎悪を抱くようになり日食と月食が生じるようになりました

その後、しばらくアスラ族と神々との間に戦が続くものの、ヴィシュヌの力に押されアスラ族は逃げ去ってしまいました